Sunday Jan 20, 2019

Homage to Soseki's dreams - The Eleventh Night


第十一夜     漱石の夢へのオマージュとして

こんな夢を見た。
巴里の街を歩いていると、大きな教会の門前らしき場所に出た。
門の向こうを見やると、まるで参道のように色々の店が道の両側に並んでいる。どうやら賑やかである。そうだ、お土産になるようなものが見つかるかもしれない、そう思って門をくぐり、ずんずん歩いた。左右に首を振りながら、忙しく店々を物色しながら歩いた。
そのうちに、歩いても歩いても、教会の建物に辿り着かないので、不安になってきた。いま、自分はどのあたりにいるのだろう。懐からiPhoneを取り出して、地図で自分の場所を確認する。すると、自分は人工の迷路の一角に立っていることが分かった。随分、入り口の門から離れた場所まで歩いて来ている。人気もすっかりなくなっている。迷路は全体に長方形をしていて、自分は入り口から次の門までの三分の二の距離まで来ているらしかった。くぐった時には分からなかったが、門の作りは複雑になっていて、俯瞰すると鬼のような怪物のような顔になっているのだった。
せっかくここまできたのに、引き返して教会に入れないのは残念だと思い、自分の歩く先の地図を、地図の画面をスクロールさせて確認してみた。すると、地図は途中からだんだん暗くなっていて、その先は真っ暗になっていた。ぞっとした。このまま進んだら、この地図の示す真っ暗な、得体の知れない場所に着いてしまう。思えば、参道の店には売り子はいたが、客はいなかった。全てが私をこの先の真っ暗な場所に誘いこむための仕掛けだったのだ。そう気付いたとたん、血の気が引いた。いつの間にか辺りは薄暗い。私は踵を返して、もと来た道を戻り始めた。
数分の間、随分長く感じられる間、とぼとぼと自分の不用心さにうんざりしながら歩いたところで、亡霊のような影が自分の周りに居ることに気がついた。自分とは反対方向に漂いながらゆらゆらと進んでいる。恐怖に一瞬凍りついた。彼らに私の事を気づかれてはならない。何より、私が彼らとは「違う」事に気づかれてはならない。私は音をたてないように歩いた。彼らを静かに避けながら、しかしできるだけ早く、出口に辿り着かなければならない。
だんだん周りに亡霊たちが増えてくる。避けるのが難しくなってきた。息が上がってきた。心臓は限界まで鼓動を早めた。出口はまだか。携帯の電池がなくなる。地図が消える。自分の居場所が分からない。息が止まる。一体、どこにいるのだろう?
亡霊の輪郭が消えてきたのか、闇が濃くなってきたのか、周りに何があるのかが分からなくなってくる。と同時に世界の輪郭も消えてゆく。
暗転の間に、自分は目覚めの前の最後の息を吐いていた。



by Kasumi Kobayashi

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